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編集者の眼

世界を変える方法は山川の教科書に書いてある

2012年02月21日 11時00分更新

中野克平/Web Professional編集部

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「世界を変えたい」とか「日本の教育行政を変えると日本を再生できる」とか、土日に最近の話題をざっと追いかけていてとても違和感があった。日本の義務教育(実態として義務化している高校も含めて)では世界を変える方法をきちんと教えているのだから、変えなければいけないのは教育行政ではなく、教科書に書かれていることを「自分事化」する教え方ではないのか、と思うのだ。

商品・サービスの設計方法

 商品・サービスの設計方法は、3つしかない。ひとつは新しいニーズをいち早くつかみ、これまでにない商品・サービスを「発明」することだ。竪穴式住居の普及で一箇所に留まる時間が長くなり、食料を貯蔵するニーズから縄文土器が生まれたように、大量の音楽がデータ化されPCで楽しむようになった後、ハードディスクやフラッシュメモリーに音楽データを入れて携帯する「携帯型デジタル音楽プレイヤー」が生まれた。

 ふたつめの方法は「改善」することだ。縄文時代の区分は「草・早・前・中・後・晩」と暗記させられたが、縄文式土器は時代を経るごとに用途によって形状に変化が生まれ、派手になっていく。アップルの携帯型デジタル音楽プレイヤー「iPod」でいえば、鞄の中に入れて通学・通勤中に聞くのに適したiPod classicの系列は、容量を増やし、使い勝手を改善する進化を続けている。一方、ジョギングやトレーニング中に身につけて聞くのに適したiPod shuffleやiPod nanoは、用途に特化して生まれ、進化している。

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 みっつめの方法は「再発明」することだ。改善を繰り返していくと、晩期の縄文式土器のように実用性からかけ離れ、無駄な装飾に富んだ商品・サービスになってしまう。縄文式土器と入れ替わるように使われ出した弥生式土器が実用的でシンプルなデザインであるように、商品・サービスもときどき「天才」が現れて既存の概念を壊す。かつて日本の携帯電話は、豊富な機能のすべてを欲している人は誰もいないにも関わらず、年に何度もモデルチェンジが繰り返され、独特の進化が「ガラパゴス」と揶揄された。しかし、かつての携帯電話の無駄に多い機能とボタンはむしろ「縄文式携帯電話」と表現するべきであって、数年もしないうちにシンプルで機能的な「弥生式携帯電話」であるスマートフォンに駆逐されるだろう。

事業戦略の基本

 世界を征服する方法は古代マケドニアのアレクサンドロス大王が完成させた。「鎚と鉄床戦術」ともいわれる方法は、敵を引きつけるために機動性よりも防御力を優先させた部隊と、敵の弱点につけ込むために機動性と攻撃力を優先させた部隊の2つで軍を編制する。つまり不敗と必勝を組み合わせればたとえ数の上で劣勢でも勝って世界帝国を作れることを実証したのがアレクサンドロスだ。

 鎚と鉄床戦術は、グローバル企業の事業戦略に応用されている。たとえばマイクロソフトはWindowsという絶対に負けない製品で売上げを確保しつつ、Word、Excelなどを組み合わせたオフィススイートで、製品単体しか持たないライバル企業のオフィス製品を蹴散らした。PC用ソフトウェアの分野で圧倒的地位を確保した後は、ハードウェア的にはほぼPCと同等のXboxでゲーム事業に進出し、圧倒的な資金力で開発環境を充実させ、Xbox 360ではさらに機能を強化して事業を継続している。

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 コーヒーチェーンのスターバックスの場合は、1985年にシアトルの1号店を開店してから1996年に中央区銀座に海外初出店するまでわずかに11年。アメリカで成功した接客スタイルなどの強みを活かしつつ、都心部に集中出店することで既存の喫茶店を都心から追い出し、「オフィスよりスターバックスで仕事をしたほうが捗る」と主張する人々まで生み出した。

自身の既得権は守り、他人の利権は奪え

門戸開放政策の一方で、棍棒外交によってカリブ海諸国への介入を防いだ

 なかなか勝てないとき、アメリカ人は「オープン」と言い出す癖がある。19世紀末に北米大陸を制圧したアメリカは、日本を含む列強がすでに進出していた中国に関心を持つようになる。しかし、中国大陸には各国が進出済みで簡単には入り込めない。そこで主張したのが「門戸開放政策」(Open Door Policy)だ。

 しかし、アメリカが日本を含む各国に門戸開放通牒を送付したのと同じ頃、近隣国に対して取っていたのが「棍棒外交」(Big Stick Policy)だ。中国大陸については各国の機会均等を訴える一方で、自身の庭先のカリブ海諸国については西洋列強からの不介入、砲艦外交によるアメリカの強い影響下に置くことを方針にした。

 門戸開放政策と棍棒外交の使い分けは、鎚と鉄床戦術の応用ともいえる。たとえばGoogleは「もっとも使いやすい検索エンジン」という絶対負けない事業と、「もっとも使いやすい検索エンジンに表示される広告」という絶対勝てる事業を組み合わせて急成長した。Googleは、もっともオープンソースを事業に活かしている企業だが、一方で検索エンジンやリスティング広告をオープン化する、という話は聞かない。成功しているとは言いがたいソーシャル分野では共通API仕様である「OpenSocial」を発表し、ライバル企業の独占を崩そうとしている。アップルはHTML5はオープン、Flashはアドビ1社がコントロールしているクローズドな技術としてiOS版を拒否したが、iPhoneアプリを独占的にコントロールしているのはアップル自身だ。自身の既得権は決してオープンにせず、他人の権利は自由や公平性を主張して奪い取る。ビジネスの世界で是非とも真似しなければならない。

天国を説いて天国への階段を売ると儲かる

 宗教改革の発端になった贖宥状(免罪符)騒動では、カトリック教会で免罪符を購入すると地獄に行かずに済むことの是非が問われた。キリスト教や仏教などの世界宗教は、罪深い人間は地獄に落ち、日々の善行が天国への階段をもたらすという世界観によって人類社会に一定の倫理観を普及させた。しかし、金を払うだけで天国に行けるのなら宗教はいらない。ルターが怒るのも当たり前である

「お金が箱の中に投げ入れられる音とともに魂は救われる」と宣伝して贖宥状を売った

 ルターが批判した免罪符は、広告宣伝に応用されている。たとえばテレビCMで家族が楽しそうにドライブに出かける映像は、テレビの前にいる家族に対して、今の生活のままでは地獄が続くこと、ドライブに行くことでもたらされる楽しさという天国を描き、天国への階段として自動車を勧める、という構造になっている。世の中のほとんどすべての広告宣伝は、天国を説いて天国への階段を提示しているのだ。

 宗教改革の見方を多少変えて、地上における神の代理人であるローマ教会と、ローマ教会への抵抗運動から生まれたプロテスタントの関係として見れば、販売に応用できる。たとえば国内のPCは、メーカーと販売代理店による複雑な流通経路のせいで長らく高値が続いていた。そこにコンパックやデルが登場し、メーカー直販で流通網を簡素に、広告宣伝費を削ることで低価格化した。高値で安定してしまっている市場では、「お客さまと直接」を売り物にする直販モデルが成立しやすい。

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